人型ロボットの頭を見て、ずっと思っていたことがあります。
「あの頭の中に、脳みそ(コンピューター)が入っているんだろうか?」
ところが調べてみると、ロボットの「頭脳」は、必ずしも頭の中にあるわけではありませんでした。しかも、ひとつの頭脳ではなく、「じっくり考える頭脳」と「とっさに動く頭脳」を分けて持っているロボットまでいます。
ロボットの体シリーズ5本目は「頭脳」。ロボットのAIと、それを動かすチップについて調べてみました。
ロボットの頭脳をひとことで言うと
- ロボットの頭脳は、AI(ソフト)と、それを動かすチップ(ハード)のセット
- 頭脳をロボットの中に積むか、外のコンピューター(クラウド)に置くかで考え方が分かれる。動くロボットは、中に積むのが基本になってきた
- 最近は、見る・言葉を理解する・動くをまとめて扱う新しいAI(VLAモデル)が登場している
- Figureのロボットは、「じっくり考える頭脳」と「とっさに動く頭脳」の2つを使い分けている
- ロボット用の頭脳チップでは、アメリカのNVIDIAが存在感を持っている
頭脳は「頭の中」にあるとは限らない
人型ロボットの頭には、目(カメラ)が付いていることが多いです。でも、考えるためのコンピューターは、胴体の中に入っていることがよくあります。
理由はシンプルで、コンピューターは熱を出すし、それなりに重いからです。頭に重い物を乗せると、首の関節に負担がかかりますし、頭が重いとバランスも取りにくくなります。前回の「足腰」の回で書いたとおり、二本足のロボットにとってバランスは大問題でした。
人間の脳は頭にありますが、ロボットは「目は頭、脳は胴体」というのも普通なんですね。ちょっと不思議な感じがします。
中に積むか、外に置くか

ロボットの頭脳には、大きく2つの置き方があります。
| 置き方 | 良いところ | 気になるところ |
|---|---|---|
| ロボットの中に積む | 通信が切れても動ける。反応が速い | 電池を食う。重い。高い |
| 外のコンピューター(クラウド)に置く | とても大きなAIを使える | 通信が遅れたり切れたりすると困る |
たとえば、ロボットが卵をつかんでいるときに、通信が0.5秒遅れたらどうなるでしょう。そのあいだに卵は落ちてしまうかもしれません。人の近くで歩いているときに通信が切れたら、もっと危険です。
そのため、体をすばやく動かす部分は、ロボットの中で計算するのが基本になってきました。
ロボット用の「頭脳チップ」
ロボットの中に積むコンピューターには、小さくて、電気をあまり使わず、それでいて高性能なチップが必要です。
この分野で存在感があるのが、アメリカのNVIDIA(エヌビディア)です。②の記事でも、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOがフィジカルAIを「次の波」と話していたことを紹介しました。
NVIDIAは2025年8月、ロボット向けのコンピューター「Jetson AGX Thor(ジェットソン・ソー)」の発売を発表しました。
- 開発者向けキットの価格は3,499ドル(約52万円)〜
- AIの計算性能は、前の世代と比べて最大7.5倍
- 消費電力は最大130ワットほど
- 早くから採用する会社として、Agility Robotics、Boston Dynamics、Figure AI、Amazon Roboticsなどの名前が挙がっていた
130ワットは、ざっくり言うと、ノートパソコンの数台分くらいの電気です。小さなチップで、大きなAIを動かそうとしているわけですね。電気の話は、このシリーズの「電池」の回で改めて調べます。
新しいAI:「見る・分かる・動く」をまとめて考える
VLA(ビジョン・ランゲージ・アクション)モデル

最近、ロボットのAIで注目されているのが、VLAモデルと呼ばれるものです。
- Vision(見る)
- Language(言葉を理解する)
- Action(動く)
の3つを、ひとつのAIでまとめて扱います。②の記事で書いた「生成AIの頭がロボットに入り始めている」という流れの、まさに中心にある技術です。
昔のロボットは、「物を見つけるプログラム」「つかみ方を決めるプログラム」「腕を動かすプログラム」を、人がそれぞれ作ってつないでいました。この方法だと、新しい物や新しい作業が出てくるたびに、人がプログラムを書き足す必要があります。家の中のように、毎日ちがう物が出てくる場所では、とても追いつきません。VLAモデルでは、「赤いコップを流しに持っていって」と言葉で頼むと、見て、考えて、体の動きまで一気に決めることを目指しています。
Figureの頭脳は「2つの頭脳」

おもしろかったのが、Figure AIが2025年2月に発表したAI「Helix(ヘリックス)」です。Helixは、頭脳を2つに分けています。
| System 2(じっくり考える頭脳) | System 1(とっさに動く頭脳) | |
|---|---|---|
| 役割 | 周りの様子と、人の言葉を理解する | 体を細かく、すばやく動かす |
| 考える速さ | 1秒に7〜9回 | 1秒に200回 |
| AIの大きさ | 約70億パラメータ | 約8,000万パラメータ |
じっくり考える頭脳が「流しに持っていくんだな」と理解し、とっさに動く頭脳が、その考えをもとに1秒に200回というスピードで指や腕を細かく調整する、という分担です。
しかもHelixは、ロボットの中に積んだ2つの小さなGPU(計算用のチップ)だけで動くそうです。外のコンピューターに頼らずに、です。
人間も、「今日の夕飯何にしよう」とじっくり考えるときと、熱いやかんに触ってとっさに手を引っこめるときでは、脳の使い方が違いますよね。ロボットの頭脳が、人間の考え方に近づいていくのはおもしろいところです。
頭脳ができても、まだ足りないもの
ここまで調べて、ロボットの頭脳はものすごいスピードで進化していると感じました。
ただ、⑦の記事で書いたとおり、ロボットのAIには「お手本のデータが足りない」という大きな課題があります。どんなに優秀な頭脳でも、練習しなければ上手になりません。
ではロボットは、どこでどうやって練習しているのか。それが次の「練習」の回のテーマです。
投資の目線でひとこと
ここまでのシリーズで、「目」のイメージセンサーや「関節」の減速機など、体の部品では日本の会社の名前がたくさん出てきました。
一方で、今回の「頭脳」では、出てくる名前がNVIDIAやFigureなど、アメリカの会社が中心でした。僕の仮説「AIのソフトはアメリカ、ロボットの体は日本が強くなるのでは」の、ちょうど「アメリカ側」が見えた回だったと思います。
日本の会社だけでなく、アメリカの会社も含めて、フィジカルAI全体にまとめて投資するETFや投資信託もあります。そのあたりは⑩⑪の記事で比べています。
※特定の企業への投資を勧めるものではありません。
まとめ
- ロボットの頭脳は、AI(ソフト)+チップ(ハード)のセット。頭ではなく胴体にあることも多い
- 体をすばやく動かす部分は、通信の遅れを避けるためロボットの中で計算するのが基本
- NVIDIAのロボット用コンピューター「Jetson AGX Thor」は、前の世代の最大7.5倍の性能
- 「見る・言葉を理解する・動く」をまとめて扱うVLAモデルが登場している
- FigureのHelixは、じっくり考える頭脳(1秒に7〜9回)ととっさに動く頭脳(1秒に200回)を使い分けている
次の記事では、この頭脳を賢くするための「練習」、つまりロボットが仮想空間でどうやってトレーニングしているのかを調べてみます。

参考資料
- SiliconANGLE「Powering the age of robotics: Nvidia launches Jetson Thor into general availability」(2025年8月)
- Figure AI「Helix: A Vision-Language-Action Model for Generalist Humanoid Control」(2025年2月)
本記事は、筆者が調べた内容を初心者目線でまとめたものです。特定の企業や銘柄への投資を勧めるものではありません。数字は各資料の公表時点のものです。円換算は1ドル=150円の概算です。


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