テスラの新型ロードスターは本当に「空飛ぶクルマ」?初心者が宙返りデモを調べてみた

スポーツカーが逆さまの坂を走りのぼっている様子。「テスラの新型車は「空飛ぶクルマ」? 初心者が宙返りデモを調べてみた」の文字入り フィジカルAIを知る

スポーツカーが、逆さまのまま坂を駆けのぼり、空中でくるっと一回転して着地する。

映画のワンシーンのようですが、本当にあったことです。

2026年10月15日(現地時間)、テスラはアメリカ・テキサス州にあるスペースXの試験場で、新型の「ロードスター」を発表しました。会場では、車が空中で宙返りするデモが披露され、イーロン・マスク氏は「未来には、やっぱり空飛ぶクルマがあった」という意味のことを話したそうです。

ニュースを見て、まず思いました。これって本当に「空飛ぶクルマ」なの? 調べてみると、すごいところと、冷静に見たほうがいいところの両方がありました。

新型ロードスター、何がすごかった?

  • テスラは新型ロードスターの発表会で、車が逆さまになって空中で一回転するデモと、車の列を飛びこえて宙返りするデモを見せた
  • 空中で向きを変えられるのは、スペースXと作った「コールドガス・スラスター」のおかげ。圧縮した空気を噴き出して、その反動で車を動かす
  • 0〜約97km/hの加速は、デモで0.81秒。発売は2028年の予定
  • ただし、プロペラで飛び続ける「空飛ぶクルマ」とはしくみがちがい、「跳んで、空中で姿勢を変えて、着地する」に近い
  • デモの車は、安全のために車が自分で運転していたとのこと
  • 何メートル、何秒飛んだのかは公表されていない。数字の多くはテスラの発表で、ほかの人が確かめたものではない

何が起きたの?

報道をもとに、デモの流れをまとめました。

デモ1:逆さまの坂から飛び出して一回転

  1. ロードスターが、上に向かってぐるっと曲がった坂を走りのぼる
  2. 車の下のファンで空気を吸いこんで、車体を坂に吸いつける。そのため、逆さまになっても落ちない
  3. 逆さまのまま坂から飛び出す
  4. 空中で、圧縮空気を噴き出して車体の向きを元に戻す
  5. 少しだけ空中にとどまり、煙のような空気を噴きながら着地

デモ2:車の列を飛びこえて宙返り

テスラの「モデル3」「モデルY」「サイバートラック」、大型トラックの「セミ」などを並べて、その上を飛びこえながら宙返りし、反対側に着地しました。テスラは、この技をスケートボードの技の名前を借りて「キックフリップ」と呼んでいます。

どうやって空中で向きを変えたの?

空気を噴き出して飛ぶ風船と、空気を噴き出して空中で向きを変えるスポーツカーを並べたイラスト。コールドガス・スラスターのしくみを表した図

カギは、スペースXと一緒に作った「コールドガス・スラスター」です。

むずかしそうな名前ですが、しくみは意外とシンプルです。

  • 「コールドガス」は、燃やさない冷たいガスという意味。今回は圧縮した空気を使っている
  • 「スラスター」は、ガスを噴き出して、その反動で動く装置

ふくらませた風船の口を離すと、空気を噴き出しながら飛んでいきますよね。あれと同じ原理です。

報道によると、ロードスターには次のような装置が入っています。

装置中身
空気のタンク丈夫なタンク2本に、約250kg分の空気をぎゅっと詰めている
噴き出し口10か所
空気の補充車が自分でタンクに空気をためなおせるので、特別な燃料はいらない
吸いつけファン車の下のファンで空気を吸い、車体を地面に押しつける。最大で重力の2倍の力

コールドガス・スラスターは、もともと宇宙で人工衛星や宇宙船の向きを細かく変えるために使われてきた技術です。ロケット会社のスペースXが関わっているのは、そのためなんですね。

「空飛ぶクルマ」と何がちがう?

プロペラで空を飛び続ける乗り物と、跳び上がって宙返りするスポーツカーを並べたイラスト。空飛ぶクルマと新型ロードスターのちがいを表した図

ここが、いちばん気になったところです。

ニュースでよく聞く「空飛ぶクルマ」は、たくさんのプロペラを回して、空中に浮かび続ける乗り物です。ヘリコプターやドローンに近い考え方ですね。

一方、ロードスターは、タンクの空気を噴き出して動きます。タンクの空気には限りがあるので、ずっと飛び続けることはできません。

プロペラ型の「空飛ぶクルマ」新型ロードスター
浮かぶしくみ電気でプロペラを回し続ける圧縮空気を噴き出す
空中にいられる時間飛行機のように移動できる公表されていない(デモでは短い時間)
主な使いみち空の移動手段地面を速く走る。空中の動きは「おまけ」に近い

なので、今回のデモは「空を飛んで移動する」というより、「跳んで、空中で姿勢を変えて、着地する」に近いと思います。テスラは「空飛ぶクルマ」と呼んでいますが、何メートルの高さを何秒飛べるのかは発表されていません。

本当の目的は「速く走ること」

調べていくと、スラスターの本当の目的は、空を飛ぶことより速く走ることのようでした。

テスラは、Xへの投稿で「今の車はすべて、タイヤのグリップに限界を決められている」と書いています。

車が加速したり曲がったりできるのは、タイヤが地面をつかんでいるからです。タイヤがすべってしまうと、それ以上は速くなれません。

そこで新型ロードスターは、

  • 車の下のファンで車体を地面に吸いつけて、タイヤのグリップを強くする
  • スラスターで直接押して、タイヤの限界をこえて加速する

という2つの方法で、ふつうの車の限界をこえようとしています。

発表された主な数字はこちらです。

項目数字
0〜約97km/hの加速デモで0.81秒。最上位モデルは0.59秒未満を目指すとされる
最高速度時速約370km以上(テスラの説明)
1回の充電で走れる距離480km以上(報道による)
生産開始2028年の予定

0.81秒は、まばたき数回分くらいの時間です。人が乗っていたら、体がシートに強く押しつけられそうですね。

3つのモデル

報道によると、新型ロードスターには3つのモデルが予定されています。

モデル特徴予約金
Performance公道を走るための基本モデル。吸いつけファンつき5万ドル(約750万円)
Thrust加速用のスラスターを追加したモデル25万ドル
Rocket1人乗り。空中を飛ぶためのスラスター一式つき。招待された人だけが買える公表なし

車そのものの価格は、まだ発表されていません。

デモの車は「自分で運転していた」

宙返りするスポーツカーのまわりに、センサーの線や傾きの矢印、AIのアイコンが浮かんでいるイラスト。車が自分で姿勢を整えるしくみを表した図

もうひとつ、このブログ的に気になったのがここです。

報道によると、デモの車は、安全のために車が自分で運転していたそうです。マスク氏は「誰もけがをさせないため」という意味のことを話しています。

逆さまの坂を走り、空中で向きを変え、着地する。これを車が自分でやるには、

  • 車の位置や傾きを、センサーで正確に知る
  • どのスラスターを、いつ、どれだけ噴くかを、一瞬で計算する
  • 着地の瞬間まで、細かく調整し続ける

必要があります。まさに「見て、考えて、動く」、フィジカルAIの考え方そのものです。

おもしろいのは、マスク氏が、新型ロードスターは将来テスラで唯一の「人が運転する車」になると話していることです。テスラの車がどんどん自動運転になっていく中で、ロードスターだけは、運転そのものを楽しむ車にするということのようです。

自動運転については、こちらの記事でくわしく調べています。

自動運転もフィジカルAI?初心者が調べたら、いちばん大規模に働いていた
フィジカルAIについて調べていると、ロボットの話と同じくらい「自動運転」の話が出てきます。最初は不思議でした。「車って、ロボットなの?」人の形もしていないし、腕もない。でも調べていくと、自動運転の車こ…

冷静に見ておきたいこと

ワクワクするニュースですが、気をつけて見たほうがいい点もあります。

  • 数字の多くはテスラの発表:加速や最高速度、飛行の能力は、ほかの機関が確かめたものではありません
  • 飛んだ高さや時間は公表されていない:「空飛ぶクルマ」と呼べるかどうかは、まだ判断しにくいです
  • 公道で空中を動けるのか:空を飛ぶ乗り物には、国の許可や安全のルールが必要です。どう認められるのかは、まだ分かりません
  • 発売の延期が続いてきた:新型ロードスターは2017年に発表され、当初は2020年に発売予定でした。そこから何度も延期されています

⑦の記事で、フィジカルAIの課題として安全性のことを書きました。車が空中で動くとなると、安全のルール作りはさらに大事になりそうです。

フィジカルAIの課題とリスクは?ワクワクの裏で初心者が気になった5つのこと
ここまで、フィジカルAIについていろいろ調べてきました。工場で11か月働いたヒューマノイド。週50万回お客さんを運ぶロボタクシー。初めての家で片付けができるAI。調べるたびにワクワクしました。でも、同…

僕が思ったこと

車が空中で宙返りすると聞くと、CGかと思ってしまいます。実際に、アメリカのファクトチェックサイトでは、本物かどうかを確かめる記事も出ていたくらいです。

でも、調べてみると、しくみは「圧縮空気を噴き出す」という、風船と同じシンプルな原理でした。それを、宇宙で使われてきた技術と、一瞬で判断する制御の技術で、車に組みこんでいる。そう考えると、魔法ではなく、ちゃんと「積み重ね」の上にある技術なんだと分かります。

僕たちが乗る日が来るかは分かりません。でも、ロケットの技術が車に入り、車が空中で自分の姿勢を整える。その組み合わせを見られただけでも、ちょっと未来を感じました。

まとめ

  • テスラは新型ロードスターで、逆さまの坂から飛び出して一回転、車の列を飛びこえて宙返りするデモを見せた
  • しくみは、スペースXと作ったコールドガス・スラスター。圧縮空気を噴き出した反動で動く
  • 車の下のファンで車体を吸いつけ、タイヤの限界をこえて走るのが本当のねらい
  • プロペラで飛び続ける「空飛ぶクルマ」とはちがい、「跳んで、空中で姿勢を変える」に近い
  • デモの車は自分で運転していた。見て、考えて、動くフィジカルAIの考え方が使われている
  • 生産は2028年の予定。ただし数字の多くはテスラの発表で、延期の歴史もある

空を飛ぶのは、まだ「おまけ」かもしれません。でも、ロケットとクルマとAIが1台に集まった、ちょっと不思議な車でした。

参考資料

本記事は、筆者が調べた内容を初心者目線でまとめたものです。性能や価格は発表・報道の時点のもので、テスラの発表にもとづく数字を含みます。為替は1ドル=150円で計算しています。特定の企業や銘柄への投資を勧めるものではありません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました